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じいさんは寝ていることが多い。私が聖地に帰る頃はほとんどそうだ。 話す機会も少ない。だが、今日は不意に声をかけられた。 「あんた、何でこんなとこに来た?ここに来るような人間じゃないだろ」 じいさんの足はピクリと震える。 「…」 ここに来たのはすべてを捨てたからだ。身の上話などするつもりはなかった。 「何となくわかるが…ああ言わんでいい。すまんかった、ルール違反じゃった」 浮浪者同士、過去を詮索しないことは聖地での暗黙の了解だった。 「じいさんはどうしてここに?」 「…わしは待っとるだけじゃ…」 微かに笑みを浮かべそう言ったじいさんはすぐに寝息をたてた。眠りに合わせて足の震えも止まる。 「娘さんの迎えを待っとるらしい。次の誕生日には来るってのが、あのじいさんの口癖だの。何年も前から待っとるが、無理じゃろうの。ここにじいさんがいることも娘さんは知っとるかどうか」 なまりのある隣の男が口を挟んだ。 「そうですか…」 「そろそろ、その時期のはずじゃの」 誕生日か…考えもしなかったが私の誕生日は二日後だ。じいさんと近いのかもしれない。 何でこんなとこに来た?。 その答えを一言で言うならば、自分が何のために生きていたのか自分自身気づいていなかったからと言えばいいだろうか。
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