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忙しい仕事優先の生活を繰り返していたある日、妻と娘が家を出た。
なくしてはじめて気づくことがある。子供の頃から幾度か聞いた言葉だ。
嘘だとは思わなかった。実際にあり得ることも想像できた。
ただ、他人事だった。やりたいことを行い、欲しいものを得る、当たり前のようにそんな人生を送ってきた私には無縁の言葉だった。
妻と娘を失ったとき、私はうろたえた。
私には仕事があると思っていたからだ。それだけで生きていけるはずだった。
だが、そのとき初めて二人のために働いていたことに気づいた。
私は歪んでいた。私の存在価値は金にあると、二人に金を与えることが使命だと無意識にそう思っていた。
妻は慰謝料も養育費も要求しなかった。それが信じられなかった。
ただ、私と別れたかった。金など何の意味もなかったのだ。自分のすべてを否定された。私は会社を辞め、家も財産も処分した。
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