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「そう言わず、貰ってください。明日引っ越すので、ご近所さんに配る粗品で申し訳ないんですけど……」
母親はペコッと頭を下げて、ユリは手を振りながら帰っていった。
二人を見送っていると、見慣れた制服の女子が一人、駆けていった。
その背中は、どこかで見たような気がして、眉間にシワを寄せて考えた。
だが、直ぐ入れ替わるように、懸(かける)と警官が走ってきたため、考えるのを止め、二人に事情を説明した。
当事者である子供も居なかったため、警官は交番に戻り、僕と懸は懸の家へと向かった。
「それにしても、京介が子供に声をかけるなんて意外……まさか、ロリコンだった??」
「そんなわけあるか、仕方ないだろ僕しかいなかったんだから」
「そういうことにしておきますか。で、その箱の中、なんだろうね??」
「関心があるのは、俺より箱なわけな??」
懸の部屋につき、ユリの母親に手渡された箱を指差されると、ひきつりながら包装紙を剥がした。
そして、段ボールの蓋の部分に手をかけた瞬間、指先に痛みが走る。
「いっ!!」
滴る赤が、白い包装紙を色付けた。
人差し指と中指の腹から、ポタポタと鮮血が流れる。
「なっ!!京介?!」
懸に手首を捕まれ、即座に心臓より上に上げられた。
近くにあったハンカチで指を包まれる。
「……段ボールの痛みじゃない……もっと鋭くて、……懸、カッターナイフで蓋をこじ開けてくれ」
「わ、分かった……」
慎重に蓋を剥がし、蓋の側面を見た僕たちが目にしたのは、波打つ段ボールの空白部分を埋めるかのように、びっしりと敷き詰められた薔薇の棘とカミソリの刃。
そして、箱の中身を見て目を丸くする。
「なんで、こんなもの……」
「わからない……だが、こんなもの近所に配るわけないと思う……」
その中に入っていたのは、綺麗な黒ユリのプリザーブトフラワーと、意味深なメッセージカード。
『さぁ、ここからが始まりだ』
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