死神の鎌

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俺は玄関に立ち、部屋を眺めていた。 そこには朝の光以外何もなかった。 「おじさんって、家具とかそういうの置かない人?」 声は外廊下からだ。 いつかの隣室の娘が顔を覗かせていた。 制服姿だった。 「俺はここから出て行く」 「ふーん。けど、あれはどうしたの?ほら、咳で人を殺すってやつ」 「中止になった」 娘はケラケラと笑った。 「なーんだ、残念。ま、最初から嘘だって知ってたけど」 「嘘ではない。なぜなら、俺は--」 「『死神の鎌だ』、でしょ?じゃあね、おじさん。いつか、おじさんの咳で私を殺しに来てね」 娘は白いシャツから伸びる腕を上げ、手を振った。 そして、エレベーターに乗り込んだ。 俺は死神の鎌だ。 右肺に凶悪なウィルスを飼っている。 弁を開き、咳一つすれば、死体の山が積み上がる。 しかし、この先、この街で咳をすることはないだろう。
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