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まるでファンタジーだ。しかし、現実なのだ。
青年の話を思い出す。
*
俺には十も離れた妹がいた。妹が構ってほしがる年頃には勉強とか部活とかとにかく忙しくて、わあわあ騒いで、日に何度も俺の袖を引く妹のことを疎ましく思わない日はなかった。
大学一年の夏、妹が肺ガンだと診断された。風邪の症状だと思っていた咳はもっと深刻なものだった。不自然に体力がなくなっていたことは分かっていた。でも、まさかガンだなんて誰が思う?十歳の頃からずっと家の中に響いていた妹の声が消えて、照明の灯りが弱々しく殺風景な部屋を照らしていた。
今まで構ってやらなかった分、甘やかしてやろうと思った。きちんと向き合いたいと思った。それなのに、妹の姿を見るのが怖くて、逃げた。何もしなかった。できなかったわけじゃないのに、何もしなかった。
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