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父が立ち上がり部屋を出て行った。
「ほらしっかりして! 今日はあの日の続きをするんでしょ」
母があかりの姿勢を正し、涙を拭いた。あかりも気持ちを切り替えて姿勢を正して母の隣に、僕の写真が飾ってある仏壇に向き合った。
僕もなんとなく自分の仏壇に対面して座ってみた。変な感じだ。やっと死んだ実感が湧いて来た。
少しして父がロウソクを立てたケーキを持って部屋に入って来た。ちゃんとプレートまでついていて、それはまるで誕生日ケーキのようだった。プレートには『タダシくん誕生日おめでとう!』と書いてある。
そうだ、僕の名前はタダシだ。これは僕の誕生日ケーキだ。あの日、僕が死んだ日、あれは誕生日だった。
「あの時はとてもお祝い気分じゃなかったからな。すまんタダシ。1年越しの誕生日会だ」
そう言って父は仏壇の前にケーキを置いた。
「楽しみにしていたもんね」
母が悲しげに笑った。
「これ、誕生日プレゼント。本が好きだったから本はお棺に入れたんだけど」
あかりはそう言って仏壇に手作りのしおりを置いた。
「これがないとどこまで読んだか分かんなくなっちゃうもんね」
あかりは手芸が得意だった。僕があげた本についているブックカバーもあかりの手作りだ。
「さて、じゃロウソクの準備はいいか? 電気消すよ」
そう言って父はロウソクに火がついたのを確認して電気を消した。
ロウソクの火に照らされて仏壇がテラテラ光っている。
「ハッピバースデートゥーユー」
そうか
「ハッピバースデートゥーユー」
僕の未練は
「ハッピバースデーディアタダシー」
これだったのか。
「ハッピバースデートゥーユー」
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