2 想い出探し

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2 想い出探し

 暖かい日差しの中、墓地に二人の霊が腰掛けていた。 「君が死んでからもうすぐ1年じゃないか?」  そう聞くのは隣の墓に遺骨が埋まっている高木さんだ。見た目は20歳くらいだが、世代としては僕のひいおじいさんくらいだ。  幽霊になると歳をとらない。 「そうですね。意外と早いですね。高木さんはいつから幽霊なんですか?」 「そうだな。かれこれ60年は経ってるな」 「ずいぶん長いですね」  死んでからはみんな死んだ時の格好のままでいる。高木さんは60年間ピシッとした軍服に身を包み、毎日重たい鉄砲を持ち歩いているのだ。僕は軽装で死んで本当に良かった。  死んでから高木さんには色々と世話になった。霊は何ができて何ができないのか。未練が消えたらどうなるか。この世界のルールを一通り教えてもらった。でもそろそろ高木さんは成仏してしまう。奥さんの死期が近いのだ。 「この1年で何か君に関する手がかりは掴めたかい?」 「いえ、まだ何も」 「そうか、私もできることは手伝うからね。なんでも言いなよ」 「はい」  高木さんはニカっと笑って 「そうだ。いいこと考えた!」  と嬉しそうに言った。  急にどうしたのかとぽかんとしている僕をよそに、早速準備に取り掛かろうと言って何処かへ行ってしまった。  1人、残されてしまった。  高木さんは思い立ったらすぐ行動に移せる人だ。そんな行動力、僕には無い。だからこうして1年たっても記憶が戻らないんだ。取り戻そうとしないから。  そう考えると怖くなってきた。このままぼんやり過ごしていたらいつまでも際限なくこの世をさまようことになるかもしれない。手がかりを探さなきゃ、1年ぶりに思い立って僕も記憶探しに出かけることにした。
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