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墓地に着いた頃にはすっかり暗くなっていた。僕の墓石の前にはたくさんのお供え物と一緒に高木さんが座っていた。
「遅かったじゃないか。珍しいね、君が遅くまで出歩くなんて」
高木さんの隣に腰を下ろしながらたくさんのお供え物に目をやった。
「たまにはそういうこともありますよ。それにしてもこれ、全部高木さんが集めたんですか?」
おはぎ、バナナ、団子、饅頭……酒。主に僕の好物がたくさんあった。
「いろんな人に協力してもらってね。お供え物を分けてもらったんだ。君、意外と和菓子好きだったろ?」
期待のこもった優しい笑顔だ。
「はい。大好きです! でもどうして?」
「君は生前の記憶がないからきっと誕生日も知らないだろうと思ってね。君の命日を誕生日ってことにして祝おうと思ったんだ。不謹慎だったかな?」
「いえ全然そんなっ嬉しいです!」
「よかった。喜んでもらえて」
安心したように高木さんはそう言って、おもむろに立ち上がり自分の墓地に行った。
「実はね、こんなものを用意したんだ」
少し恥ずかしそうに、小さなチョコケーキを持ってきた。
「どうしたんですかそれ!」
普通に考えて墓前にケーキを備える人なんていない。高木さんは少し照れながら、少し自慢げに言った。
「これ自作なんだ。昔、妻がチョコをお供えしてくれてね。それが勿体なくて食べられないでずっと持っていたんだ。それを溶かして饅頭にコーティングしてみた。だから中身はあんこなんだ。ごめんよ、これくらいしかできなくて」
とても嬉しかった。高木さんがいつも大切そうにチョコレートを持っているのを僕は知っていた。
「ありがとうございます」
心からそう言えた。ありがたく自作のチョコケーキを受け取った。
「味、どうかな?」
心配そうに聞く。一口かじってみるとパキッとした食感の外側と柔らかく甘い内側でなかなか美味しい。
「美味しいです!」
そう、伝えたかった。
さっきまでそこにいた高木さんは、どこにも見当たらなかった。
1人、残されてしまった。
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