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涼しい風が墓地を駆け抜けた。1人でここにいるといつ終わるか分からない膨大な時間について考えてしまう。僕は残されたたくさんのお供え物からおはぎを1つ手に取り、ふらっと墓地の外へ出た。
月明かりでいつもより綺麗な道をおはぎを食べながら歩いた。あんまり出歩いたことがないから数分歩いただけでもう見慣れない町だ。
家々から暖かい光が漏れている。外を出歩く人はもうほとんどいなかった。
「わっ! ごめんなさい!」
暗闇から突然現れた礼服の人にぶつかりそうになって思わず謝った。
礼服の人は何事もなかったように前を通り過ぎて行った。いや実際当人からすれば何事もなかったのだが。
その人はコンビニ帰りのような小さな袋を持って、道路に面している家に入って行った。表札には相沢と書かれていた。
なんだか妙に気になった。ここに何かがある、そんな気がした。普段なら他人の家に忍び入るなど絶対にしない。でも、今日は違った。
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