感染

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「……ついに、私も感染したな」 「……百合子ちゃん」 小宮が、可愛い顔を歪ませて、喘ぐ様に呼ぶ。 私は、ぽろぽろと溢れる涙を拭う事もせずに、じっと小宮を見つめた。 「これで、終わりだ」 私の、全てが。 「そんなっ、ことーー」 ふるふると、泣き出しそうに首を振る小宮。 「こんなはずじゃ、無かったんだけどなぁ……」 ひりひりと、咽が痛む。 涙を痛いと感じるのは、初めてだった。 この三年を、思い返す。 まさか、自分がこんな風になるとは、少しも思わなかった。 「百合子ちゃん……」 両目を赤く染め、目の縁一杯に涙を湛え、それでも決して泣かない小宮が、私は意外に好きらしい。 今、気付いた。 「くや、しいな……。悔しいよ。小宮」 私、悔しい。 溜息の様に呟くと、小宮の白く細い咽がくっと鳴った。 私は、力の入らない身体を見下ろした。 自分の身体じゃ無いみたい。重くて、痛くて、苦しくて。 何もかも、嘘だと思いたい。 「あーあー。遅かったなぁ。もっと早く……」 もっと早く、ーーしていれば……。 小宮が堪らずと云った風に、強く抱きしめて来た。 私より、少し小さい彼女の、細く柔らかく温かい身体にすがって、声を殺して泣いた。 小宮は、ずっと言っていた。 それを真に受けなかったのは、私だ。全部、私が悪い。 今更後悔したって遅いけど、後から後から溢れる涙の数、過去の自分を呪った。 出来る事なら、それこそ山程あった。すべき事も。 「こみやぁ、私、私ーー!」 自分がこんな風になるなんて、思わなかった。 「ごめんっ。ごめんね。ごめんなさい、小宮……」 酷い事ばかり言った。 それでも、小宮は私を見限らなかった。 「良いんだよ、百合子ちゃん。……分かってる。分かってるから」 小宮の身体も、細かく震えていた。 私は、最後の涙を流して、魂を手放した。 するりと、手から放れて行った、私の魂。 地面に落ちて、カツンと音をたてた。
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