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最初に削ったのはほんの二センチの長さだった。体内深くで刃が潜る音が反響している気がして鳥肌が立った。やがてじくじくと痛みだす。血液が玉をつくり、はじけては、こぼれた。
皮一枚を一ミリの幅で削り飛ばしていく。父親の目は集中と狂気に彩られ、それは機械のような一定のリズムであり、こぼれていくわが身を眺めては、あなたは歯を食いしばっている。
と、父親の怒号が轟いた。女中に目を逸らすなと声を荒らげる。
女中は自分がされているわけでもないのに涙をこぼしていた。あなたは呆れた。
やがてそこには四センチ四方の赤い正方形ができた。
あなたは最後まで声ひとつあげなかった。
抱えの外科医はおがくずのように削り落とされた皮膚の縫合を諦めて、大腿の皮膚を移植することにした。
手術を終えてしばらく経ち、ガーゼが取れた日、あなたはベッドの上で天井に手のひらを透かすようにした。
手の甲はそこだけ異質に見える。この家での自分のようだとあなたは小さく笑った。
以来、あなたの生活にふたつの変化が起こった。
脳波とバイタルサインを常に監視されているのと、あの女中が薬の服用の際に話しかけてくるようになったのだ。
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