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あの雨は、仕掛けた悪戯が成功して腹を抱えて笑い、目端に浮かんだ涙と同義のものである。
底意地の悪いものに似つかわしい、悪意に満ちた涙だ。
――あなたは目を覚ました。
自室の天井は白々しく迎え入れてくれている気がした。
片足が折れ、全身を打ちつけながらもあなたは生きていた。強く踏み切れなかったせいで階下の出っ張りに身体がひっかかり、落下の速度が落ちたせいだった。
包帯を巻かれ、チューブに繋がれ、身の毛のよだつ違和感が股間にあった。
あなたが目を覚ましたとの報せに父親が姿を見せて、薄ら寒い口調で懇々と諭す。
自殺はよくないことだ。世の中は明日もあなたが生きていることを前提として回っている。約束を反故にするということであり、人として許されざる行為だ、と。
あなたにとって、そんなものは知ったことではなかった。
つぎに父親はこの名家におけるあなたのありようを説いた。まとめるならそれは余計なことをせず粛々と暮らせ、という旨のことであり、最後にこう付け足した。
――あなたの精神性はこの家の者に相応しくなく、まかり間違ってあなたから自分の血を引く者が出るのは避けたい。
あなたの睾丸はただの球体と入れ替わっていた。徹底的に生殖機能を奪ったのだ。
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