Y染色体ネオアダム

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 父親は去った。  あなたは哄笑した。わが身の滑稽さと無様さを嘲笑した。おかしくてたまらなかった。  一分もせずに医師が鎮静剤を打ちに来た。自分はもはや監視下にあるのだと知る。  不快感と倦怠感に、嫌悪感まで増えていた。あなたが死んでは家の看板に傷がつくと懸念する父親に対するものだった。  だがそれは日ごとに薄まっていく。食後の薬に向精神薬のたぐいが含まれていると当たりをつけた。  人間など神経伝達物質の糸に操られるマリオネットに過ぎないと知る。強力にあなたを操り、生に縋らせようとする。  自分は死んだほうがよい、とこの先を思って論理でねじ伏せようとしたが、べつにいま苦しいことはないしいいじゃないか、と感情がそれを拒絶する。  やがて松葉杖をついてひとりで移動できるようになり、あなたは学業に復帰する。足を滑らせて歩道橋の階段を落ちたことになっていた。丁寧にも写真を見せられ、ここでこう落ちたことにするよう女中らから指導を受けていた。  ばかばかしかった。  級友たちの好奇の視線に晒されて、心配をかけてすまないと謝りさえした。級友たちはとくに心配などしていなかったが、学校に来られてよかったと安心してみせた。
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