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休んでいるあいだは家庭教師に指導してもらっていた。学業でついていけないということはまるでなく、ほどなく受けた期末テストでは学年でトップテンに入る実力があった。
父親は褒めもしなかった。
ただ、夕食はふだんの倍は豪勢になった。どれくらいぶりかに家族全員が集まったのだ。母親と長兄はあなたを嫌い目も合わせなかったが、ほかの兄たちは口先だけの賛辞をした。
あなたはアルコールを摂取していた。
――ここ数日、あなたは眠れないといっては眠剤をねだった。飲むのを見届けてから戻ってくるように言われたのだろう女中はあの歳若い聞きたがりの女であった。あなたは眠剤を飲むふりをして舌下に隠し、去ったあとにこっそり取り出して保管していた。
アルコールのせいで今日は薬はなしと言われていたあなたは気にするようすもなく、自室で女中におやすみと告げて手を振った。
ひとり、あなたは過去に囚われる。未来を仇敵のごとく睨みつける。
もはやあなたに現在はなく、澱み腐った過去の沼に首まで浸かり、閉ざされた未来のみを瞳に宿す。
天気予報は明日の雨を報せていた。
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