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あなたに明日があるかはわからなかった。
ノートパソコンの電源コードにハングマンズノットを施して、ドアノブに括りつけた。
屈みこんで処刑の輪をつかむ。その向こうには埃ひとつ舞わない自分の部屋があるはずだが、いまのあなたは覗き込んでも何も見ていない。瞼を落として首を突っ込む。頭部だけ別の世界に入った気がした。口内に含んでいた眠剤を嚥下する。
ドアに背を預けて、足が床と水平になるように伸ばす。踵は床をこすり、臀部は浮いたままだ。首を圧迫しながらコードが絞まる。あなたは体内で音を聴く。
かくして女中はあなたの部屋のドアを叩く。もう片方の手には壊れた傘がある。手入れ中に壊したのを謝ろうとしている。
あなたはふたたび失敗した。
事の顛末を聞いた父親に地下室に連れてこられた。ワインの貯蔵庫であるそこは石畳で冷ややかな印象を受けた。木製の肘掛けつきの椅子があり、座らせられた。
女中が青い顔をしてついてきていた。
あなたは胴体と手足を拘束される。手首と肘掛けを括る黒い革のベルトはよくわからない染みにまみれている。
いっそのこと電気でも流れてくれればよいと願う。
だが、その願いだけは叶わない。
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