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「先輩の好みに合わせて髪伸ばしました! さらさらで長くてきれいな髪が好きだって言いました! 私がまだ小さかった時、結婚したいっていったら、先輩一八才になったらもう一回言ってって言いました! 次の日女の子は一六歳で結婚できるって言ったら先輩、じゃあ一六歳ねって言ってくれました!」
あぁ,そっか……この子が。
「春さんみたいに……、春さんみたいに綺麗な黒髪じゃないけど、背も低いし、お姉さんじゃないけど、私は、私はいなくならないから! だから、好きです。私を、守って下さい」
そう素直に伝える彼女の顔は、もう涙を堪えきれず決壊した優君の泣き顔と同じくらいぐしゃぐしゃで、様々な感情が綯交ぜになっていて。
素直でズルくて、優しくて卑怯で、儚げで凛々しくて
まるで神様みたいだなって、そう思った。
未だに悲痛な面持ちの優君も、さっきよりも僅かに頬の緊張が解けていて、きっとこうやって少しずつ、彼の心はまるで春の日差しを浴びた雪のように溶かされてゆくのだろう。
振り向いた優君と近づく美紀ちゃんを眺めながら。
わたしは時間が残された彼らを素直に、いーなぁー、羨ましいなぁーと思った。
きっとこの先いろんなことが二人を待ち受けているのだろう。楽しいことばかりじゃない。
辛いこと、苦しいこともあると思うけど、二人なら大丈夫に違いない。
だから頑張って。そう思った。
そう思っていたのだけれど、私の口からは別の言葉があたり一面に鳴り響いていた。
『いかないで、おいてかないで、ゆうくん、ゆうくん! ひとりにしないで ずっといっしょにいて、わたしと――』
そんな私の悲鳴の中、春の突風と共に舞う桜の花びらと共に私の意識は溶けていった。
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