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「ここはどこ?ママとパパは?」
「ここにはいない。お前は、今、生死をさまよっている」
低くかすれた声だった。
「お前の両親の希望で、誕生日ケーキを届けにきた。20歳の誕生日おめでとう」
黒マントの男は、細く長い手で、誕生日ケーキを持っている。
「誕生日プレゼントとして、なにか願いをかなえてやろう」
誕生日ケーキに刺さったろうそくの光がゆらゆら揺れていた。
その光の中に、ぼんやりと映像が見える。さっきまで、私が乗っていた車。
ボンネットが変形し、フロントガラスが粉々に割れている。
「…たくない…死にたくない」
その瞬間、ろうそくの光がまぶしいほどに輝き、目を閉じた。
再び目を開けたときは、病院のベッドの上だった。
そして病院から、ママとパパは亡くなったと知らされた。
*****
それから1年後、21歳になったある日、虫歯の治療で歯医者に行った。
保険証の提示を求められたので、財布からそれ取り出すと、保険証の生年月日がぼやけて見えた。目をこすってみてもやっぱりぼやけて見える。
1993年の数字が煙のように浮かび上がり1994年になった。
「え?なに?」
数字を指でこすっても変わらなかった。
その翌年、身元を証明する私の生年月日の全てが、1994年から1995年に変わった。
私は20歳から年を取らないのかもしれない。
そう思うようになってから、21歳の誕生日を迎えると、自分のことを全く知らない町に引っ越し、また20歳として生活をするようにした。
記憶が混ざらないよう、毎年1冊日記を書くことも始めた。
そんな日記も4冊目になる。
日記帳の表紙に『2018年20歳』と赤ペンで書くと、そのまま床に置いた。
窓を開け、飲むヨーグルトを飲みながら、求人誌をめくる。
何ページ目かめくると『ハピネスパスタ』『勤務時間9:00から22:00 時間曜日ご相談ください』という項目に目が留まった。
私は持っていた赤ペンで、シュッと大きく丸をつけた。
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