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「紅丸は私が友達ではいや?」
「蒼、"とも"とは友達ではなく、供と書いて"とも"と読む」
「供?」
「つまりは夫婦(めおと)ですね」
可憐な笑顔はそう言った。
私の軽い発想は、あまりにも飛んでいき残された頭には夫婦という衝撃的な言葉が残された。
私は驚嘆の叫びを放ち、森からは鳥が羽ばたき、その後、果てしない静寂が残った。
「ふ…ふ…」
私の頭は着いていけず、夫婦という言葉についていけず、頭文字だけが口から幾度もこぼれ落ちた。
それを拾いあげ、足りない欠片を組み合わせて紅丸は続けた。
「夫婦」
ぼっと顔が熱くなる。
紅丸の口から出た言葉、紅丸の口から出たからこそ真実味をもち、私の心臓を加速させていく。
「まままって!聞いてません!友達と思って!それに私はついてきただけだし!紅丸と話をしたいだけで、そんな疚しい(やましい)ことは……」
「ちょっとちょっと。落ち着いて。深呼吸しよう」
紅丸が肩に手をのせて、目線の高さを私と合わせてそう言った。
導かれるように深呼吸をすると肩からちからが抜けていく。
紅丸が肩から吸いとっていくように。
「落ち着いた?」
ふわりと笑う紅丸の顔に、落ち着いて初めて、気付いた。
とても近い。
減速した心臓はギアをあげ、またしても加速する。
短くコクコクと頷いた私の顔はきっと、蛸より赤く、紅丸よりも赤々しいことだろう。
「それでなぜに蒼なのですか?」
「あら。貴方がここ何年で初めて女性と話してたから、お好みなのかと」
かなり無茶苦茶な理屈だが、その笑顔を見ると、反論する意思を殺される。
まるで花に愚痴をこぼすような気分にさせられそうだ。
「私のような"憑き妖(つきかみ)"は"憑き神(つきがみ)"のものしか交われぬはず」
「そうですね」
紅丸の理屈を、嘲笑うようにさらりと答える。
「蒼は普通の人間です。巻き込んではなりませんし、憑いてもおりません」
「そうですね」
繰返し、淡々と返す国さん。
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