第1章

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 今日は俺の誕生日。    ホテルのパーティー会場を貸し切り、誕生日パーティーを開催していた。  その会場はそれは豪華な造りで、天井には大きなシャンデリア、床は真っ白い大理石。それはまるでヨーロッパのお城かと思わせる雰囲気だ。  誕生日パーティーは立食方式だった。テーブルには様々な料理が準備されていた。前菜から魚料理や肉料理、それからフルーツまで用意されていた。しかも料理だけでなくバーカウンター設置されている。そこのバーカウンターにはお洒落にワインやシャンパンが置かれていた。    参加人数は、ざっと見渡す限り100名は下らないだろう。今日はパーティーを始めるには少し早い時間帯にもかかわらず、みんなビシッと服装を決めて来ている。    「おい、バイト。ちゃんと仕事しろ。小皿に料理を取り分けろ」    俺は上司から命令された。    実は、この誕生日パーティーは俺のための催しではない。確かに今日は俺の誕生日だが、俺はホテルの給仕のバイトでここにいるだけだ。この誕生日パーティーの主役は別にいるのだ。  ホテルの会場を貸し切り、誕生日パーティーを催しているのは、どっかの企業の社長だ。しかも社長本人の誕生日パーティーではなく、社長の息子の誕生日パーティーなのだ。  その社長の息子は、この会場のステージ中央の目立つところに座っていた。今日で10歳になるらしい。  俺は二十歳の誕生日にバイトをしているというのに、社長の息子というだけで、こんなに盛大なパーティーが開けるんだから、本当に人生というのは不公平だ。  俺は上司に言われるままに、料理を小皿に分ける作業を続けた。  俺は世間でいうところのフリーターと呼ばれている存在だ。高校を卒業後、田舎から上京してきた。上京してきた目的は、ビックになることだ。俺は一流のミュージシャンになることが夢だった。しかし現実は、そう甘くはなかった。オーディションを受けるが落ちまくるし、路上で歌っても、誰も聴いてはくれない。歌を歌って食べてはいけないから、俺はいくつものバイトを掛け持ちしている。そして今日、ホテルの給仕もバイトの中の一つだ。  俺は料理を分けながら、ステージ中央にいる社長の息子を羨ましく思った。
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