第1章

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 何の不自由もなく、楽々過ごしてるに違いない。もし俺が社長の息子なら、バイトなどせず歌を歌うことだけに打ち込めるのに。それにお金があれば、きっといろんなチャンスも多いはずだ。  俺は自分の歌声には自信があった。きっとこの世はコネとか権力がないと成功しない仕組みになっているのではないかと、最近思うようになっていた。  「おい、バイト。ステージにいる社長の息子に何か食事を持って行ってこい」  上司が俺に命令した。  「なんで俺が?」と俺は口答えした。  「いいから、お前が行って来い」  上司は食事を取り分けた小皿を俺に持たせ、問答無用に俺に命令した。まあ、仕方のないことだ。この職場では俺が一番下っ端なのだから。  俺は渋々、ステージの社長の息子のところへ行った。  「これでも食べますか?」  俺は料理を差し出し、話し掛けた。    社長の息子は黙ったまま、俺のつま先から頭まで見回した。そして俺に向かって一言言った。  「いらない。そんな料理、食べ飽きた」  一言言い終わると、社長の息子は俺から目を背けた。  『このクソ生意気なガキが』と俺は心の中で叫んだ。しかし俺も大人。ここで働いている身なのでグッと堪えて笑顔を作った。  「なにか持ってこようか?」  俺は優しく、目の前のクソガキに尋ねた。  クソガキは俺のほうにもう一度目を向けた。そしてしばらく俺を見ながら考え事をしているようだった。  「じゃあ、カップラーメン持ってきて」  クソガキが注文したのはカップラーメンだった。このホテルのパーティー会場にカップラーメンなんて置いてるわけがない。クソガキがナメたこと言いやがって。俺はクソガキの頭を叩きそうになった。  「たかし、カップラーメンなんて食べてはダメよ。あんな食べ物は体に毒よ」  綺麗にドレスを着飾っていた女性が、クソガキに向かって話し掛けた。この女性は、クソガキの母親だ。  「でも、みんな食べてるよ。僕も食べてみたい」  「よそはよそ、うちはうち。カップラーメンなんて食べたらいけません」  母親が怒った口調で言うと、クソガキは渋々返事をした。  「お母さん、もう帰りたいよ。ここにいても暇だもん」  「そんなこと言わないで、ここにいなさい。せっかくみんな、あなたのために祝っているのに」
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