第1章

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 母親はそれだけ言って、その場から離れて行った。そして、おめかししている奥様連中とおしゃべりをしだした。クソガキのほうを見ると、クソガキは退屈そうにボーっとしていた。    母親だけでなく、父親も父親で、どっかのお偉いさんと話し込んでいる。そもそも、この会場を見渡す限り、このクソガキの誕生日を祝っている客はほとんど皆無だ。みんな父親の繋がりで来た客だろう。  クソガキの周りの置かれたプレゼントも花束が多く、別に子供が欲しがるプレゼントでもない。  いくら自分の誕生日パーティーでも、こんな親の見栄のためのパーティーでは子供は暇にもなる。俺はそんなことを思いながら、少しばかりクソガキのことを哀れんだ。  パーティーの時間が過ぎ、パーティーの最後にケーキが登場した。そのケーキは特大で、ケーキにはクソガキの似顔絵が描かれていた。  このときばかりは来ていた客はみんなクソガキに注目していた。そして注目されているなか、クソガキは嬉しそうにケーキに灯っていたローソクの火を一息で消した。割れんばかりの拍手にクソガキは少し照れていた。  こうしてクソガキの誕生日パーティーは幕を閉じた。  一応、めでたしめでたし、なのだが、俺にはまだ続きがある。それはこの会場の後片付けだ。それがバイトの宿命なのだ。  夕方から始まったパーティーだったが、後片付けを済ませて自分のアパートに戻ってきたのは10時になっていた。  アパートには電気が点いていた。アパートの中にいるのは、きっと彼女の美和だ。あいつには、ここの合鍵を渡してあった。  俺は玄関を開けて部屋に入ると、「おかえり」と言いながら美和が駆け寄ってきた。  「お前、なんで今日いるの?バイトじゃないの?」と俺は美和に言った。  美和は俺と同じ歳。路上で歌を歌っていたとき、歌を聴いてくれたのが美和だった。そのまま俺が声を掛けて付き合うようになった。  美和も田舎から上京していた。ただ俺とは違って大学に通うためだ。今も大学に通っているのだが、自分の生活費を稼ぐため、美和もバイトをしている。今日も居酒屋のバイトがあると、数日前に言っていた。  「ちょっと、バイト抜け出させてもらったの。すぐに戻んなくちゃ」と美和は言った。  「だったら、わざわざ来なくても」
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