1 花畑の傘

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1 花畑の傘

ゴールデンウィーク最終日はあいにく雨だった。 その次の日僕はいつものようにあの花を見に行くと、ちょうど家主が花畑の世話をしているところだった。 僕はあの花を見つけて首を大きくひねった。 花の上に傘がさしてある。人の傘だ。 花畑に似合わない黒い傘は花を雨から守っているように見えた。 「こんにちは、今日も来てくれたんだね」 僕がぐるぐると考えを巡らしているうちに、ここの家主、元居さんが僕を見つけて声をかけてきた。 元居さんは僕が生まれたときよりもずっと前からこの家にいて、庭を管理しているらしかった。 60代半ばの元居さんに子供はなく、ずいぶん前に奥さんを亡くしてからずっと一人でこの家に暮らし、花を育ててきたのだと聞いた。 だから僕が訪ねて行くと、まるで自分の孫が来たように嬉しそうにもてなしてくれるのだった。 「こんにちは、もといさん。どうしてこのお花は傘をさしているの?水はお花にひつようなんだろ」 僕は毎日元居さんが花に水をやっているのを見ていた。このころの僕には雨も元居さんがあげている水も、同じ「水」でしかなかったのだ。 元居さんは持っていたスコップを置いて僕のいる方へやってきた。
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