1 花畑の傘

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「かなくんはこの花見るの初めてか。入っておいで、近くで見るといい」 そう言うと元居さんは僕を玄関ではなく庭側の門扉の中に招き入れた。毎日訪れていたが、庭の中に入るのは初めてだった。 「ここをご覧」 あの花の前に立つと元居さんは傘からはみ出してしまった花びらを指差した。 「茶色くなってる…」 シルクのように艶やかで白い花びらの中に、まるでそこだけ病にかかってしまったように白い花びらが茶色く変色してしまっているのだった。 「この花はね、雨に濡れると枯れてしまうんだ。だからこうして傘を差しているんだよ」 僕は茶色く変色してしまった花びらを指でつついた。 「雨はわるいものなの」 僕は傘からはみ出した手に落ちる雫に顔をしかめた。 「いいや、このお花がとても繊細なんだ」 「せんさい?」 「他のお花より少しだけ弱いんだ。でもその代わりこんなにきれいな花を咲かせてくれる」 元居さんは花を見て微笑んだ。 「雨は人間にも、動物にも、もちろん植物にも大事なものだ。でも時には雨で困る植物も人もいる。かなくん、そんな人たちを見たら助けてあげるんだよ」 そう言うと元居さんは僕の頭に手をポンポンと置いて笑った。
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