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2 雨の彼女
「あの、」
「え?」
僕が彼女と出会ったのは、元居さんから初めてあの花について教えてもらった15年後。
日もまた5月のゴールデンウィークの最終日で、雨だった。
「よかったら使ってください」
彼女がいたのはなんの変哲もない古いアパートの軒下で、朝から降っていたはずの雨に初めて気づいたかのように呆然として立っていた。
僕はさしていた透明なビニール傘をそのまま彼女に差し出した。
「え、あの、でも」
彼女はどぎまぎして僕と傘の柄を見比べる。
白いロングのワンピースに、色素の薄いセミロングの髪と茶色い目。
肌も真っ白で、雨に沈んだ街の中で彼女だけが白く光っているように見えた。
「僕は折りたたみ傘も持っているので」
どうぞ、と半ば強引に傘を彼女に渡す。
彼女はまだ呆然とした様子でぽつりと
「ありがとう、ございます」と言った。
「あ、返さなくても大丈夫なので」
とりあえず受け取ってもらえた安心感に顔を綻ばせて僕は自分の黒い折りたたみ傘を開いてその場を去ろうとした。
「あのっ」
突然彼女が焦ったように声をあげた。急に聞こえた彼女の声に僕も驚いて「はい?」と間抜けな声を出してしまう。彼女のほうに向き直ると彼女の顔は今にも泣きそうにゆがんでいた。
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