4 マドレーヌ

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4 マドレーヌ

室内の温度に溶けた氷がグラスの中で軽やかな音を立てる。 僕と彼女はステンドグラスが溶けたコーヒー香る店内で静かに会話を交わした。 すきな音楽の話、趣味の話、僕の職場の話。 彼女は実に聞き上手だった。 穏やかな笑みを浮かべながら、時に口に手をやって笑い、それからどうしたの?と聞いてくる。 僕はすっかり居心地が良くなり、自分のことばかり話してしまったように思う。 特に、元居さんの話に彼女は興味を寄せていた。 15年前の雨の日に元居さんと花の話をしてから、いつでも来るといいと言って庭の門扉の合鍵をもらった僕は、ほとんど毎日のように元居さんの家を訪ねていた。 僕が庭の草花に見入っていると、元居さんはいつの間にか隣にしゃがんで説明をしてくれ、 通い続けるうちに、元居さんとお菓子や紅茶を食べながら植物の話をするのが日課のようになっていった。 驚いたのはお菓子はもちろん紅茶まで手作りであったことだ。
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