4 マドレーヌ

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僕の両親は2人とも仕事が忙しくて、手作りのご飯さえ食べることが難しかった。 それでも2人が休みの日は目一杯僕に構ってくれたし、お父さんの妹の真希さんと真希さんの旦那さんの由春さんがたまに来て料理を振る舞い、僕と遊んでくれたからそこまで不満を感じることはなかった。 それでも誰もいない家にそのまま毎日帰るより元居さんの庭で草花を見ているほうがよっぽど気持ちが穏やかになった。 それにまぁちゃん、真希さんのことだけど、は少し料理が苦手で、由春おじさんと僕はいつも苦笑いをしていたから、元居さんの売り物のようなお菓子と紅茶を食べたとき、心底驚いたことを覚えている。 亡くなった奥さんがマドレーヌが大好きだったから、奥さんの気をひくために元居さんは必死で練習したそうだ。 「初めは本当にひどくてね、何度焦がしたかわからないよ」 と苦い顔をして言っていた。 「そうしてやっと美味しく焼けるようになって、彩子に渡して喜んでくれたのは良かったんだが、次も楽しみにしてると言われてしまってね、彼女に喜んでもらえるようにまた違うお菓子作りに没頭せざるを得なかったわけだ」 そうして彩子さんに喜んでもらうためだけに、元居さんはお菓子を作り続けたらしい。 「彩子がお菓子を食べる時の笑顔がすきだったんだ」 元居さんは幸せそうに、だけどやはり少し寂しそうに笑った。
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