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「へ~、ホントに歌ってるんだ。噂もバカにならないもんねぇ」 誰も立ち入らない森の小さな湖の水面のように静かで凪いだ旋律が止み、代わりに飛び込んできたのは少しだけ甲高い声。 気配は結構前から感じていた。敵意を感じなかったから害はないと判断して敢えて放置していたけど、まさか向こうから接触してくるとは思わなかった。 主(ぬし)様が、掛けられた声を辿って機械的にゆるゆると顔を上げる。 何を映しているか分からない虚ろで無色透明のガラス玉のようだった瞳が時間を掛けて徐々に焦点を結んで。 「……麗(うるは)」  ゆっくりと見開かれる動揺の色を乗せた瞳と、震える唇から吐息のように溢れ出た人名に『あの当時』の関係者だと知った。
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