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僕は夜空を見上げるのが好きだった。 「紺 ( こん ) ……」 そう呼ばれ、満天の星空を見上げた。 じいちゃんの声が星の光と共に降ってきた。 「紺は、月明かりが綺麗な紺色の空の時に生まれたんだ。だから、お前の名前は紺なんだ」 じいちゃんの話には、いつも続きがあった。 僕はそれを飽きずに何度も聞いた。 「紺が生まれた日の夜は、月が星を全て食べてしまってな。だから、夜なのに星は全く見えなかった。月だけが紺色の空にポツンと浮かんでいたんだよ」 じいちゃんはそう呟くと必ず縁側から、つっかけを履いて外へ出た。 月と星が見える空を見上げて 「こんな夜じゃあなかったんだ」 じいちゃんの、つっかけの横にはもう一つ大人用の、つっかけが置いてあった。僕には大きすぎるそれを履いてカッツンカッツンと音を立てながら歩き、じいちゃんの横に並んで立つと、二人で同じように星空を見上げた。 「ふぅん。夜はいつも星が見えるから、星のない夜がどんなのか想像がつかないよ」 「紺と月だけの空だよ」 庭からは鈴虫の鳴き声が聞こえ始めていた。 もう秋が近づいている。 吹き抜ける風は冷たくなっていた。 秋の香りが鼻先を抜けて行った。 懐かしい草の、木々の花の、枯れ葉の香りが混じった秋の……。
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