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「あれ? 足はもういいのか?」
「はい、治りました」
図書室に向かう途中で山口先生に声を掛けられた。
今日は七夕。明日の告白タイムにはどんなドラマが待っているんだろう。
図書委員は準備と片付けでそれどころじゃないけど。
結局、私の足首は捻挫だった。
あの後、病院に行ったら、無理に動かさなかったのが良かったと言われた。あの若いサラリーマンのおかげだ。
あの人の”おかげ”はもう1つある。
大人の男の人に話しかけられても、普通に話せるようになってきたこと。たぶん、あの人と話せたことが自信に繋がったんだと思う。
もう一度、会いたいな。
あれから毎晩、校門の前で母の迎えを待ちながら、夜空の星を見上げて思っていた。
もう一度、あの人に会いたい。
絵理沙に話したら、『それは恋だね』って笑われた。
恋なんてしたことないから、この気持ちが恋なのかわからない。
でも、そうなのかも。だって、こんなに会いたい。
風に揺れる笹を見上げると、黒い雲が月を隠していくのが見えた。
今日は晴れのち曇りで、夜になって時々雨が降るという予報だった。
雨は降らないでほしい。
「何て書いたの?」
こっそり短冊を結び付けていたら、絵理沙に見つかってしまった。
「あの人にもう一度会えますようにって」
「そっか。本当に会えたらいいね」
「うん」
どこの誰かも知らない。会えたとしても、お礼を言った後は何を話せばいいのかもわからない。
でも、きっと何かが始まるような気がするんだ。
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