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階段下の電光掲示板が点滅して、次の電車が来ることを知らせている。
駅のアナウンスも何か言っていたけど、私の耳にはちゃんと入って来なかった。
――やだ。なんか怖い。
男性がすぐ後ろまで迫ってきた気配がして、私は階段を駆け上った……つもりだった。
17歳のピチピチのJKが、足がもつれて階段から落ちるなんて情けない。
やっぱり2時間連続のバスケの授業が効いていたんだな。
恐怖に駆られて慌てた私は、見事に足を踏み外してしまった。
4~5段は滑り落ちたと思う。
でも、そこでふわっと私の身体は浮き上がった。
「大丈夫ですか?」
倒れこんだ私を抱き上げて立ち上がらせてくれたのは、あの若いサラリーマンだった。
「だ、大丈夫です」
自分の状態も確かめずに即答してから、ハッと気づいた。
私、見ず知らずの大人の男の人に声をかけられたのに、ちゃんと返事出来たじゃない。
いつもだったら固まってしまって何も言えないし、顔も見られないのに。
怖いと思って逃げようとした人なのに、なぜか今は怖くない。
心配そうに掛けてくれた声や表情が、優しかったから?
彼のことを不審者のように警戒して悪かったな。
気を取り直して階段を上ろうとしたら、右足の足首がぐにゃっと曲がって倒れそうになった。
「危ない! 足首、捻ったみたいだね」
若いサラリーマンがバランスを崩した私の身体をまた支えてくれた。
不思議。この人には触られても怖くない。どうしてだろう。
そんなのんきなことを考えていたら、電車がホームに入って来てドッと乗客が降りて階段に押し寄せてきた。
乗り継ぎのバスの発車時刻が迫っているのか、凄い勢いで駆け上がってくる人々の様子に、階段の中ほどにいた私たちは思わず顔を見合わせた。
スーツ姿の男性たちがすぐ下まで迫って来て、鼓動が速くなった。
「上までちょっと我慢して」
「え?」
彼の言葉の意味を理解出来ないうちに、私の視界が急に高くなった。彼に縦抱きにされたから。
ひょろっとした男性なのに、軽々と私を抱き上げて階段を一段飛ばしで上がっていく。
自分がまるで小さな少女に戻ったような気がした。
実際は父親にも誰にもこんな風に抱き上げられたことなどないんだけど。
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