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ちょうどそこから、先程覘き見た畑が見える。
畑の再奥、林との境界に一際大きい土塊があった。
なにが植えられているのだろう。
縁側のすぐ左手に大きな水瓶と、バケツとジョウロがある。
きっとこれで畑の水やりをするのだ。
そう言えば、こんな山奥に水道などは引かれているのだろうか。
座敷を振り返り天井を見た。
電灯がない。
「ああ、私は暗くなれば、すぐに休んでしまいますのでね」
視線を下げると俊晴が座卓の前に座っている。湯呑を二つ、ことりと置いた。
「電気は引いておりません。私は慣れておりますが、街からいらした方には暗いのではありませんか?」
「いや、そんなことはありません」
伊庭は勧められるまま座敷に腰を下ろした。
「ガスも水道もないのですよ。井戸があるので水には不自由しませんし、先ほどお話したように裏には温泉が湧きます。山には食べるものも豊富にあって飢えることもないのです。ああ、畑は趣味のようなものです。でも結構収穫もありますし、ウサギやイノシシにも分けてあげられます。畑の向こうには柿の木もあるのですよ。渋柿ですけれど」
俊晴は楽しそうに話した。
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