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 二十一世紀にもなって、こんな仙人のような暮らしをしているとは、ますます驚きだ。  しかも、俊晴は見かけだけなら伊庭よりもはるかに若い。  俗世を離れたったひとりで、二カ月もの間、人の言葉を話していないだと? 「ふふふ……」  疑問が表情に出てしまっていたのだろうか、俊晴は口元に拳をあてて、声を出して笑った。 「時折ふもとには下りるのですよ。食糧や衣類を買ったりもします。納屋には車もあるのです」 「あ……ああ……」  見透かされた伊庭が言葉に詰まると、俊晴はまた嬉しそうに笑った。  それはそうだろう。いくらなんでも、世間と完全に切れて生きて行くことなど出来ない。 「ああ、すみません。私ばかりがつまらない話をしてしまいました」  ひとしきり笑ったあと、俊晴は静かに目を伏せて言った。 「嬉しかったのです。このようなところに、私を訪ねて来て下さる方がいらっしゃることが……」  伊庭はほんの少し動揺した。  対象に興味を持つな、というのは伊庭の業界の鉄則だ。  少しの動揺が失敗に繋がる。
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