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またツキは武術も怠りなく学んでいて、私はよく手合わせを請うた。
「お前に1度も勝てたことがない」
「やはり力では女性は男性に勝つことは難しいかもしれませんね。ヨルさんの腕が悪いわけではありません。どうか悲しまないで下さい」
そういわれると余計に悲しく、女である自分の身が悔しくて、私は着物の襟の部分をギュッと掴んで直した。
だが、私がツキに勝てなかったのは女だからではないのが後に分かった。他の塾生と手合わせをすると勝てるときも多く、私がツキに勝てないのはツキが強いからなのだと悟った。
「私はツキに勝てるようになりたい」
私が言うと、ツキは少し悲しげに微笑んで、
「私は貴女に負けるわけにはいかないのです」
と言った。
「?」
「ヨルさんは察しがいいのにわからないのですか?」
ツキの長い睫がふるえ、ため息をつくように言われたとき、私は自分の心臓がはねるのを感じた。
まさか。こんなにも年の違う私をツキが好きなわけがない。
私が黙っているとツキは目を伏せた。睫の影が落ちた。ツキからは寂しさがにじみ出ていて、私は思わずツキを抱きしめた。抱きしめたつもりだったが、もうツキの身長は伸びて、私よりも少し高くなっていて、どちらが抱きしめているのかわからない図になった。それに気付いて、なんだか急に恥ずかしくなって離れようとすると、今度はツキが私を抱きしめた。はれものに触るかのように。
「私と貴女の気持ちが同じものであればいいのに」
ツキは本当に私が好きなのだろうか。私はツキを好きなのだろうか。
分からない。
なんと答えたらいいのかわからなかった。だがしばらく私はツキに身を預けていた。ツキは16歳に、私は21歳になっていた。
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