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ままならないものがこの世にはある。
私が彼に初めて出会ったのは祖父の修塾でだった。
主に戦術を教えていた祖父の塾に彼は入ってきた。私が17歳。彼は12歳のときだ。
妙に綺麗な顔をした育ちのよさそうな少年だった。
12歳。塾に入るにはやや早い年だ。まだ背の低い少年は、年に似合わぬ丁寧でしっかりした口調で挨拶をした。
「ツキと申します。まだ何も分からぬゆえ、ご指導のほどよろしくお願いいたします」
祖父の塾には各国に軍師や将軍として仕官したい若者が集まる。
その中で私、ヨルは唯一人の女の塾生であった。
両親は婚期の遅れ気味の私が塾に通い、ますます普通の女性としての道から外れていくことを嘆いていたが、私は女性として生きるよりも名を上げてそこそこの主君の下で仕官することを望んでいた。
祖父の血だろうか。10歳になったときには祖父に質問ばかりをし、14歳で塾に入った。私の才能は塾の中でもぬきんでていたが、いかんせん女の私に仕官を望む主君はなかなか現れず、17歳を迎えていた。
そんな私にツキは言った。
「女性のヨルさんが塾にいらっしゃるのには驚きました」
まあ、塾に入ってきた誰もが私の存在に疑問を抱くものだ。
「そうか」
「おじいさまの影響ですか」
「それもあるだろうが、私は名のある主君のもとで自分の力を振るってみたいのだ」
「……仕官をされたいということですか」
「そういうことだ」
ツキはしばらく目伏せて考える仕草をした。私は興味深げにその顔を見ていた。
「……。僕はまだ世の中の仕組みがよくわかりませんが、女性だからといって仕官できないというのはおかしいと思っていました。ヨルさんの志は尊いものだと思います」
伏せていた目を上げ私の目を真っ直ぐ見つめてツキは言った。大きな黒瞳は清らかで迷いがなく、私はますます彼に興味を覚えた。
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