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「……大丈夫ですか?おーい」
声がする。ゆっくり目を開けた。そこは真っ暗な夜に月夜の光がかすかに入ってくる場所。そして私の体を濡らし下に流れる冷たい水。そう、本物の川だ。チョコレートなんて流れてない。
「あのう……」
「意識あるようですね。もうすぐ救急車をお呼びします」
そこにいた男性は私をかなり気遣ってるようだ。スーツに帽子、そして杖。まるでチロルのようだった。
「チロル?」
「にゃー」
上から声がした。柵のところに猫がこちらを見ていた。
「そうか、君だったのか」
私はそう呟いて猫に言うと去っていった。
「楽しかったよ。ありが……とう……」
私は何も感じなくなった。そして静かに心の中で思った。私は死んでしまったのだと。
いや、違った。脈を図る音が聞こえる。
「目が覚めましたか?」
そこにはさっきの男性がいた。
「あなた、よかったですね。この人、あなたが目を覚ますまでずっとここにいたのですよ」
その男性は照れくさそうに首を振った。
「ありがとうございます」
「いえいえ」
そう、これが彼との出会いだった。彼は今もわたしのそばにいる。結婚したからだ。もしチロルにもう一度こう聞かれたら答えはこうだ。
「生きてて楽しい?」
「その答えは今は出せない。だってまだ生きているのだから」と。
月夜の光の下で私たちはこれからも生きていくのだ。
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