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ルーファスが無言で微笑んだ。差し出した手はそのままに、すっと半歩前に出る。令嬢がひるんだように両手を胸の前で組んだ。
「あ・・・あの」
「お誘いしているのは私ですよ、美しい方。まさかその瞳に映っているのが私でないとは、これほどの悲しみはありません。・・・・・どうか私に、お手を」
セシリオは背筋にひやりとするものを感じた。
ルーファスに気圧されて、令嬢は脅えている。
おかしい、と胸に不快な石が落ちた。
ルーファスは相手の身元を確かめるのに、強気な態度で押すような阿呆ではない。
(どうしたんだ、あいつ)
小さな不審は、すぐに異変となった。
すっ、とルーファスの横から令嬢に手を差し伸べる者があったのである。
「神々の娘のように麗しい方。私もあなたのお手を請いたく思います」
「剣で鍛えたこの手で、貴女様のお手を支えましょう」
皆、隣に立つのが第一王子セシリオの美貌の側近だと気づいていないかのように、熱心にその令嬢の気を引こうと押しのけあって前へ出ようとする。
そこにルーファスも当たり前のように混じっていて、セシリオは目を疑った。
(どうなっている?)
遠目では分からない、と早足で歩み寄って、ぐいとルーファスの腕をひく。
すると、ルーファスから苛立たしげな冷たい視線を向けられて、セシリオはぎょっとした。
これは、異様だ。
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