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魔力への耐性が強い自身の体質に感謝しながら、ホールの奥に続く短い回廊を通り抜ける。令嬢は靴が合わないのか、時折よろめいた。
回廊の先に広がるのは、灯火の明かりを受けて赤々と染まる春の庭園だ。
憩いの場となっている噴水の前のベンチに令嬢を座らせ、セシリオは「説明してもらおうか」と促した。
「・・・わ、私のもとに今夜、魔女様が現れたのでございます」
突拍子のない話でも、セシリオは穏やかに「そうか」と受けて、続きを促した。
令嬢は、自身の名を「メイティ」と名乗り、魔女の魔法で美しく装ったこと、そして魔女がメイティの右足の小指から剥いだ爪を二頭立ての馬車に変えて、それにメイティを乗せたことを、とつとつと語った。
「その右足の小指を見ても?」
令嬢 ー メイティは、ドレスの裾を持ち上げた。透き通ったガラスの靴を履いていて、右足の小指には確かに爪がなく、黒紫色に変色している。
「これは、痛みはないのか?」
セシリオが尋ねたら、メイティは「ありえないくらい痛いです」と涙目で答えた。
「なぜこんな靴を?」
「王子様が足の小指を見せてと仰るはずだから、と魔女様が」
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