僕の願い事

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 少し肌寒い、夜の公園に僕はいた。  小学生以来のブランコに乗り、懐かしさにキィキィと耳が痛くなる音を聞きながら軽く地面を蹴っては揺れる感覚に酔いしれる。    あの頃は友達と夢中になって、どっちがより高く漕げるか競いあったものだ。ブランコを高く漕げば漕ぐほど空が近くに見えて、まるで宙を飛んでいるようだった。それがとても楽しくて、日が暮れるまで乗っていたこともあるくらいに、僕は好きだった。  ただ今は、いつまでもいい年齢の男が、といっても一応まだ20代前半ではあるけど、夜にブランコに一人寂しく乗ってるわけにはいかない。  このご時世、にこやかに小学生の女子に挨拶しただけでも通報される世の中だ。こんな人気のない夜の公園で、男が一人ブランコに乗っていた日には、怪しさ満点で即、職質かな。    電灯に照らされた時計の柱を僕は、ため息をつきながら見上げた。もう20時を回っている。  だけど、何時になろうとも誰も家で僕の帰りを待っている訳じゃない。    上京してから1年余り。  ただいまと言えば、「おかえり」と当たり前のように返ってきた言葉が、実は当たり前の事じゃなくて凄く暖かいものだったことを僕は知った。  何だかそれがある時、急にとても寂しくなって気が付けば仕事帰りにどこかで適当に時間を潰してから家に帰るようになった。そんなことをしたって、寂しさがなくなるわけじゃないのはわかってる。それでも、真っ直ぐ帰る気にはなれないんだ。    だから、僕はふらふらと誘われるように今日はこの公園で時間を潰している。 「……何か、趣味とかあればいいのかな? もしくは、友達?」  そう一人ごちて、僕は苦笑した。    上京して知り合いは増えたけど、友人と呼べるような間柄はいない。昔は意識しなくても、気が付けば自然に友達になっていたのに、今ではどうやって友達になっていたのかもわからない。    大人になると色々我慢することだったり縛りが増えていくのに、僕の貴重な友人達は疎遠になったりいつの間にか自然消滅で減っていく一方だ。それは、僕にも問題があるんだろうけど……  
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