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ねえもし、君が世界で一番格好良かったとして私は君を好きになれたと思う?
口に出さずに訊いたら、君はううんと首を振って夜空の星を一つ摘んで私の口に押し込んだ。
「甘いね」
「ただの金平糖だよ。もひとついかが?」
大げさに口元までジッパーを締め込んだダウンジャケットで彼の言葉はくぐもって聞こえる。
公園の外に置いたままの自転車に結露した雫がすうっと流れるのを見た。月明かりを反射して、まるで流れ星だ。君の横顔を眺めていると、小さかった頃を思い出してしまって締め切った口元の綻びを耐えきれずにはいられない。
「あの星のどこかに」
袖で手を隠しているけれど、指をさした方向は空だったから問題はない。
「あの星のどこかに、お父さんはいるのかな」
「えっと、どれかな?」
もし君が「あの星のどれかに」だとか「あの星のどこかにうさぎはいるのかな」とかそんなことを言ったのなら私は聞き返さずにいられたろう。
お父さんの居場所、それを感じられるのは血の繋がったこの子しかいないのだから。
「オリオン座の右肩、ベテルギウスだよ」
「……ううん、どうだろうね」
「覚えてるかな、美智子さん。僕が小さかった頃の夢」
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