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「中学生の頃なら、君はバンドマンになりたいって言ってたのを覚えているわ。音楽で食べていけるわけないじゃないって叱ったわよね」
君はまた、金平糖をひとつ袋からつまみ出して星空に透かしてから口に運んだ。薄い緑色のそれがみずみずしい君の唇に吸い込まれる様に魅入ってしまう。まるであの人みたい、と。
「美智子さんのあの叱責は今でも忘れないなあ。僕はロックスターになりたかったんだよ。でもね、やっぱり現実は甘くなかった。幸い自分の才能のなさに気付いたのが早かったのだけれど、あと一歩間違えていればこんな日はいつ迎えられたものか分からなかったのだから」
「そうかもしれないわね……でも、私が君の夢に口出しなんてするものじゃなかったのかも」
「美智子さんなら、いいんだよ」
彫りの深い君の顔の隅々まで月光に満たされて、まるで太陽の光を受けて月の輝くのと同じように、光っている。
「輝いているよ、君は」
「そうかも、ね。紆余曲折あったけれど、どうにかこの日を迎えることができた」
「うまくいくといい……いえ、きっとうまくいくわ」
「……だといいな」
君の重力で捉えた彼女は美しい。きっと、誰よりも。
……そんな彼女を捉えた君の次に、美しい。
そんな恥ずかしいこと言えるはずがない。私は美智子であって、他の何者でもないのだろうから。
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