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うっとりと君を眺めるこの景色、姿。今は亡きベテルギウスのあなたからみればどう映るのだろうか。
「まるで君、恋でもしているようじゃないか」すっと通り抜けた冷たい風が囁いて、私は寒くて顔が赤くなるのを感じた。
「お父さんに彼女を紹介出来なかったのは残念だったなあ」
「高校生の頃に一度、連れてきたじゃないの」
からかうように言うと、金平糖を持っていない手でデコピンされた。
「いたっ」
「あいつは関係ないでしょう。一年くらいで別れたしさ」
馬鹿にすんなよ、ふくれっ面でそう言う君が可笑しくて、少し涙が出たけれどそれも風が拭い去った。
もう、馬鹿に出来ないわね。こんなに大きくなったんだもの。
彼女を守っていくんだもの。
ダウンジャケットのジッパーを下ろして、スーツの内ポケットからリングを取り出した。
「綺麗でしょ」
「綺麗ね。私のは少しくすんできちゃったわ」
「美智子さんは、結婚しないの?」
「そうね、君を追い出したら考えてみてもいいわ」
「ははは、そう遠くないかもね」
君は立ち上がって自転車の鍵を手で弄んだ。
「帰ろう、冷えるよ」
コーヒーの空き缶と買い物袋を自転車の前かごに載せて、私は君の自転車の後ろに乗った。荷台は硬くて、少しお尻が痛い。
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