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金平糖、持っててくれると差し出されたファンシーな袋にはまだたくさん星が詰まっている。
「動くよ」
「あんまりスピード出さないでね。何時に待ち合わせたの?」
「あいつが仕事終わるのが十九時だから、それくらい」
「気合い入ってないのか、アバウトなのか……」
「お父さん譲りだよ、多分」
あの人のプロポーズもそういえば、印象の薄いアバウトなものだったように思う。えっ、今本当に結婚しようって言ったの、そう訊き返したくらいだから。
君に私の染色体が一縷でも巻きついていれば、高級レストランの予約でもとって花束も用意して、周到にムードを作ってプロポーズしただろうな。
「ね、美智子さん」
振り向かないで、君は言った。
住宅街の晩御飯の匂いのする風に載せて、言葉が耳元にするりと。
「お母さんって呼んでもいいかな、今さらだけれど」
君がまだ中学二年生だった頃、私たちは初めて出会った。新しいお母さんだぞ、あの人はアバウトに紹介してくれたのに君は結局私のことを十三年もの間、美智子さんだと呼び続けていた。
それを別に私は気にも止めなかった。だって結婚してすぐあの人は逝ってしまったから、私を美智子さんと呼ぶ君はいつでも世界一格好良かったから。だから。
この恋心の行き場は今、ベテルギウスに届く冬風に消えた。
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