月の舟は、星の林に漕ぎ出ずる

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自分自身、何とも言い難い時間をその部屋ですごし、翌日やっと連絡のついた親戚の家に、もう一日お世話になることが決まった。荷物をまとめてその人の家族に一泊の御礼をいい、そのまま予備校へ向かった。 あの部屋にあった、几帳面に入れられた年賀状と思われるハガキの束を、こっそり見ようと思えば見ることはできた。でも、見てもしょうがないと思った。状差しの端から見える送り主の名前は女性の名前。私と同じ高校のクラスメートの彼氏だと聞いていたから、なおさら余計な邪心は起こさずにその部屋を後にした。 昨夜夕食時にそれとなくその人の母親から 「〇〇さんって知ってる?なんかつきあってるらしいのよ」 と教えてくれたのは何だったのか? 「知ってます、〇〇さんとは高校のクラス同じでしたから」 と無難に答えたつもりだったけど…。 ほかに言いようもなかった。心の中では「親にばれてるじゃん」と苦笑いしたのも確か。
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