月の舟は、星の林に漕ぎ出ずる （原案）

月の舟は、星の林に漕ぎ出ずる

自分のことだって余裕がないのに、異性と付き合うのどうのというのも煩わしかった。
もっとも自分だけが、そう思っていたのかもしれない。
休み時間に他の女の子たちは、彼氏がどうのいう話を楽しそうに話している。
自分は個性的だとよく言われた。ひっくり返せば『変わってる』ということだ。
地学部に所属していたが、変わった人の集まりだと陰で言われているのを知っている。星が好きだといえば、なんでそんなものに興味を持つの？と言われた。好きなら好きでいいじゃないか。

面倒なことはすべて高校の屋上で星を見て忘れた。
星が出るくらいに少し遅くまで学校に居ても、地学部だと特に何も言われない。

とにかく、今の自分の願いは進路だ。どう転ぶにしろできれば地元に居たくない。
自分の幼い頃からすべて知っている人たちと距離を取りたかった。煩わしいとさえ思った。私はこういうものだという、固定観念で話をする人たちとの会話にうんざりしていた。
煌々と光る月には、地元から出て、自分を知らない人たちがいる場所で生活したいと願っていた。

高校を卒業して一浪した。
隣の市の予備校へ電車通学した時も、夕方の空に浮かぶ月や星を眺めて願った。
あの時泊めてもらったあの人の部屋も、できれば忘れてしまいたかった。

その願いが通じたのかどうかわからないが、翌年他県にある短期大学に合格して、一人暮らしが始まった。