月の舟は、星の林に漕ぎ出ずる

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一人暮らしは自分の時間ができて楽だけど、何でも自分でしなければならないのは大変だった。今まで実家で暮らしていて、帰宅すればご飯も、洗濯も済んでいるし、掃除もしてくれていた。 自由になった分自己責任が増えた。 そんな2年間の学生生活も難なく終わり、就職もその場所のままで何とか決まった。 就職しても、仕事を覚えるのに必死で、会社とアパートの往復の生活。毎日疲れ果てて寝てしまうのが常だった。 洗濯物を取り込もうとアパートのベランダに出てみると月が出ていた。 この頃夜空を眺めていない。 月は出ていたが三日月だった。満月はいつだったんだろう。 今だったら願ってもいいのかな。一人で頑張るには少し疲れた。 月を見ていて、思わずため息がこぼれた。 (自分に合う誰かと巡り合うことはできるでしょうか?私には過ぎた願いでしょうか?) いつもの仕事を終えて、夕方、大きな公園の前を通ると、何人かでワゴン車から大きな荷物を運び出していた。何だろうと思っていたら、その中の一人がチラシを配り始めた。 「天文観測会をしている市民サークルです。望遠鏡で月を見ませんか?」 懐かしい思いで、チラシを見ていると声をかけられた。
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