月の舟は、星の林に漕ぎ出ずる

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「無料ですので是非どうぞ」 ついつい立ち止まって、誘われるまま設置された望遠鏡を覗いていた。 月ってあんなに綺麗だったんだ。そう思ったら声にでていたらしい。 「皆さんに声をかけても、お忙しいのかなかなか立ち止まってもらえないんですよ。よかった。立ち止まってもらえて。月、綺麗ですよね。癒されます」 人懐っこい表情のメガネの男性がそう言った。 「月の光を浴びると狂うって言いません?」 ちょっと意地悪くそう言ってみた。 「僕は狂気より、月の光に慈愛を感じます。何でも許してもらえそうでしょう?」 「…そうかもしれませんね」 珍しく自分は素直に答えていた。 「あの…よかったら、来週また同じ場所で観測会をします。お時間があったら是非来てください」 そういった男性は、小さなパンフレットを差し出した。 「天文サークル”天球儀”?」 「華北大学の学生が主体として運営している市民参加型のサークルです」
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