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彼女も、どうやら俺のこと覚えていてくれたらしい。
数ヵ月前。
部活の全国大会の宿泊先が同じ県という理由で彼女の学校と一緒になった。
初めて会ったばかりで彼女のことなんてまだ何も知らなかったのに、誰にも見つからないようにこっそりと泣いていた彼女をこの手で抱き締めてやりたいと、そう思った。
高校生活最後の大会が始まる、と考えると今までの苦しかったことも嬉しかったことも色々と思い出されて、夜中なかなか眠れずに自販機で何か飲もうと一人こっそり部屋を出た。
談話室の奥でガタンと音を響かせて落ちてきたペットボトルのお茶を飲む。
ソファーに身を投げ出して明日の対戦相手とのシミュレーションをぼんやりと思い浮かべていた。
そこに後から彼女がやって来て、こちらには気付かぬらしく声も漏らさずに静かに泣き始めた。
俺の気配に気付いて慌てて振り返ったときの、濡れた睫毛。見開いた瞳。艶やかな黒髪。
高校生と思えない位の色気。
一目惚れだった。
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