流れ星にまつわる思い出

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 深夜零時。ふと、僕はボロアパートの窓から外を見た。街の光は未だ絶えず夜を照らし、空の星はその輝きを鈍らせている。ありふれた都会の夜、いつもと変わらない六畳半の部屋。  その時、細やかな光が視界を横切った、流れ星だ。都会に出てきて見たのは初めてか。ふと、何も願わなかったなと思った。正体がただの塵だと知って幻滅したのは幾つの頃だっただろうか、夢の正体を疑い出した頃と重なっていた気がした。  ふと、山奥の田舎が写った写真に目を向けて最期に流れ星を見た時の事を思い出した。苦い思い出に自分でも苦笑が浮かんだのが分かった――――  ――――確か三年前。何かの番組に触発されて気まぐれな彼女が突然蛍を見たいと言い出したのが始まりだったか、驚くべき速さで一泊二日の旅行計画を組み立てた彼女は渋い顔をする僕を引きずって意気揚々と出かけた。  電車に揺られて五時間、早くも暇を持て余した彼女を何とか宥めて年季のありそうな民宿へと向かった。元々田舎育ちの僕にとっては存外悪くなかったが、彼女は古い汚いと盛大に文句を言っていた。自分で予約したんだろ、とは言わないでおいた。  蛍を見るために夜起きておかなければならないと仮眠を取った僕に対して、彼女は外を歩いて回っていたようだ。疲れて帰ってきた彼女は案の定ぐっすりと眠って一晩中目を覚まさなかった。  ここまで来て何もせずに帰るのは勿体ないと、カメラを持って僕だけで蛍を見に行った。宿の人に良いスポットを教わり、少しだけ心が躍った。 
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