流れ星にまつわる思い出

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 歩いて五分もしない内に、一匹の蛍が淡い光と共に僕の前を横切った。引き付けられるように追いかけると、蛍の光でできる静かな星空がそこにあった。蛙の声の中、僕はしばしその絶景に見入っていた。カメラはあったが写真を撮るのは酷く無粋な行為に思えて止めた。  美しい光景に大満足して民宿へと帰る途中、ふと天を仰いで僕は再び絶句した。先程の蛍に勝るとも劣らない美しい星空が広がっていたのだ。先程の星空とは対極的な、宝石をちりばめたと形容するのが相応しい絢爛豪華な星空だった。  息を呑む僕の視線の先で、星の一つが唐突に落ちた。実際には別物だが、目で追った僕には本当にその星が落ちたように思えた。突然のことで願い事なんてする間も無かった。  何か勿体無い気分になった。そして有る事を思いついた。ここは一つ流れ星の代わりにこの美しい星空に祈ろう、きっと聞き入れてくれるだろう、と。いつもの僕ならあり得ない思考だが、どうかしてるとは思わなかった。  そして僕は夜空に願った。願わくば、この幸せが途絶えませんように、と――――  「――――ま、結局それからしばらくして別れちゃったんだよなぁ。」  情けない別れ話、苦い思い出についつい独り言ちて、僕は再び目の前のPCに向き直った。当分はこいつが恋人だな、と笑いながら。  視界の端で都会の光がまた一つ消え、少しだけ夜空はその美しさを取り戻したような気がした。
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