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船頭俺一人で山に登る。舟?放してやった
ああ…助かりました。ホントウにありがとう……。コンナ小舟でも座礁なんてことはあるんですナァ……アハアハ。イヤ笑いも出るというものです。
ハア。乗組員は私一人ですが……ハイ。一人でどこまで釣りに行くつもりだったか……?
アハアハアハ。確かに私が乗っていたのは漁船でしたがネ、別に釣りに行こうってんじゃありません。
イヤ……今となっては口にするのもハズカシイ限りなんですが……マア言ってしまえば、世を知らぬ無知な若者式の気合をゾンブンに働かして、何とか一旗揚げてやろうという、無茶な試みを胸に、オンボロな漁船を格安で買い取ってあの恐ろしい大海原へ繰り出した……という訳です。
どうです……面黒い話でしょう…アハアハ……大いに笑って下さって結構……私の人生に於ける屈指の笑い話になるでしょうからネ……アハアハ。
サテ……私は舟も失った訳ですから、ここからは陸路で行こうと思っているのですがネ……エエ勿論です。
ここで諦めて帰ろうものなら、それこそ嘲笑(わらい)話になることは明白ですからネ……ネ……。
しかし私はここらの案内に全然疎い身ですから、東西南北どちらに向かえば行き着くのか、とんと見当がつかないのです。
金の方は心配ありません。チョット大きな声では言えない方法ですが、国を出る前に稼いだ金がたんまりあります。
エエ…貴重品はいつでも私の身にシッカリと括りつけてありますから……水難を逃れた訳です。
おお……教えて下さる。ありがとう、ありがとう。貴方には感謝してもしきれません。
してその行き方とは……ハア。辺りを見回してみなさい……ハハア。確かに山々が連なっていますネ…。これが全部「受県の天王山系」の山々……ナルホド。あのシッカリ聳えているのが天王山……4989m……ヘエ。それじゃ富士山より高い訳だ……。…ハア……道は一本…天王山を通る道のみ……ハハア。ここを越えるとすぐ大きな街に……但し急峻、危険……確かに準備が必要ですナ。それじゃ物を取り揃える為に店に行かなくちゃ……ハア。コッチにある。
「田九里雑貨店」……ヘエ。ここですか。食料にザックに寝袋……ソンナに要りますか。1日12時間歩いて2ヵ月……エェッ。ソンナにかかるんですか。そりゃ入念にしなくちゃなりませんナ。
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